法話・感話

ほうき星と智慧
2024.11.6|法話・感話

ほうき星と智慧

 今年の10月にほうき星が夕方西空に見えました。「紫金山・アトラス彗星」というのが正式な名前です。望遠鏡などを使わず肉眼で見えるほうき星は1997年に見られたヘールボップ彗星以来ですから、とても珍しい現象でした。

 「ほうき」といえば漢字で「箒」という字を使います。この漢字は象形文字で箒、帚、篲、彗といった幾つかの書き方があったようで、中でも「彗」という字は、彗星(すいせい)という言葉で今もよく使われます。彗星の別名を箒星(ほうきぼし)と言い、かつて昔の人が彗星を見て、ほうきを連想した様子が浮かぶようで、改めて漢字の奥深さに感心しました。

 「箒」と言えばお経の中に出てくる有名な話があります。阿弥陀経の始めにお釈迦さまのお弟子さんが紹介されていますがその中に「周利槃陀伽」(ハンタカ)という人が登場します。

 ハンタカさんはお兄さんと共にお釈迦さまの元で教えを学び始めますが、兄は秀才で教えを一度聞いたら忘れません。ところが弟のハンタカは直ぐ忘れてしまいます。兄さんはお前にはせっかくの教えを理解する事は無理だと実家に帰してしまいます。悲しみのハンタカの話を聞いたお釈迦様は彼のもとを訪れ話しを聞きます。そこで手渡したのが一本の箒だったと言うのです。

 「ハンタカよ、これが何かな?」「ほうき……でしょうか?」「どういう字を書く?」・・・黙り込むハンタカに、お釈迦さんはこう応えました。

 「『彗』と書く。また、これで掃くことを彗掃(すいそう)と言う。あなたにはこれから、この祇園精舎の敷地を彗掃してもらおう」

 「スイ・ソウですか?」「そう彗掃です」ハンタカは、『彗』の字がわかっても、『掃』の字を忘れてしまい、反対に『掃』の字がわかっても、『彗』を忘れてしまい、覚えることができませんでした。「彗掃まぁハンタカよ、とにかくやってみることだ」と

 そうして、自分を見つめ毎日毎日彗掃をして祇園精舎を塵一つない精舎にしたのです。やがてハンタカさんは「彗掃」の心に目が覚め、お釈迦さまの大切な弟子の一人になったといいます。

 自分が愚かであることに気づいている人は、智慧ある人なのです。愚かであるのに自分はかしこいと思っている人こそ、本当の愚か者なのです。

 彗と慧の意味もまた印象的です。一般的に「ちえ」という字は「知恵」と書きますが、仏教では「智慧」という漢字を用いるのです。彗の心です。

紫金山・アトラス彗星(2024年10月夕空に見られたほうき星)

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